犬と猫の腎臓病

 この文章は、2005年9月16-18日に開催された日本臨床獣医学フォーラム 年次大会に参加した際のテキストとメモをもとに作成しています。 発表者は 竹内動物病院 竹内和義先生 です。

腎臓のはたらき
 体中の血液の20%が腎臓を通る。その主なはたらきは以下のようなものである。
  @老廃物を尿として排泄し、必要なものを再吸収
  A酸、アルカリのpH調節
  B電解質バランスの調節(Ca,K,Cl)
  C血圧の調整(レニン)
  D赤血球をつくるホルモン(エリスロポエチン)の分泌
  E骨をつくるのに必要なビタミンDを役に立つ形へと活性化
 エリスロポエチン(EPO)
  85%が細尿管でつくられ、骨髄へ送られる。15%は肝臓でつくられる。

腎臓病 : 昔から”無言の病”といわれる。

  • 急性腎不全  早期に適切な治療をおこなえば、完治が可能
  • 慢性腎不全  静かに進行し、気がついたら手遅れで完治が難しい。
              延命とQOL(Quality of Life)の向上が主な処置となる。
  • さらに腎臓機能が悪くなる原因の発生部位から
    ・腎前性腎不全 腎臓には20%の血液が通過する。心臓・循環器系に問題があり、血液量が減ることにより2次的に腎機能が悪くなることを言う。
    ・腎性腎不全 腎臓自体が原因でその機能が低下するものである。糸球体腎炎、間質性腎炎、腫瘍、腎盂腎炎が主な原因。猫の場合は 加齢とともに腎臓が萎縮して腎不全に進行するケースが多い。また、腎性腎不全の原因はFIVやFeLVの持続感染であったりと様々である。
    ・腎後性腎不全 腎臓よりも抹消側である尿管、膀胱、尿道が問題で尿が排出されなくなり、2次的に腎臓機能が低下すること。 主な原因として腎臓結石、尿路結石、猫の尿閉塞、腫瘍、外傷が挙げられる。特にオス猫の尿閉症が多く、ストルバイト結晶 (リン酸、アンモニウム、マグネシウムが主成分)がペニスの先端につまり、尿が排出できなくなって尿毒素が体内にたまり尿毒症 となり、腎臓に深刻なダメージを与えるケースである。

    とに分けて呼ばれる。

    急性腎不全
    主に腎前性と腎後性である。
    心臓などの循環器の急激な機能不全
    尿閉症のような尿排泄障害
    感染症によって腎臓内の細尿管が壊死
    重度の感染を引き起こす病気の放置による敗血症から、増殖した細菌から放出されるエンドトキシン(菌体内毒素) が腎臓に障害を起こす。代表的なものは子宮蓄膿症である。

    急性腎不全の治療
     原因の除去とともに点滴、利尿療法を集中的に行う。また、人工透析は有効な方法である。。 人工透析には血液透析と腹膜透析が存在する。血液透析は高価な特殊な設備が必要でコスト的にも現実的ではないが、 腹膜透析は比較的容易に行え、熱心な動物病院ならば実施しているところがある。
     *腹膜透析(月に5〜6回行う)
     腹に透析液を注入。腹膜は半透膜であるため、老廃物を浸透圧により液側へ移す。
     →液の回収

    <腎不全を引き起こす病気>
    レプトスピラ
    免疫介在性糸球体腎炎
    血管炎
    すい炎
    敗血症
    肝不全
    熱射病
    輸血反応
    細菌性心内膜炎
    リンパ腫
    尿管閉塞(結石性)

    <腎臓に毒性のある治療薬>
    抗生剤
    アミノグリコシド(ゲンタマイシン)
    セファロスポロン(セファレキシン)
    化学療法剤・抗真菌剤
    消炎鎮痛剤(アセトアミノフェン:猫)
    有機ヨード造影剤


    <腎臓をだめにする物質>
    エチレングリコール(不凍液)
    重金属(水銀、ヒ素、タリウム)
    昆虫・蛇毒素
    ヘモグロビン
    ブドウ・レーズン(犬)
    ユリ(猫)
    除草剤(パラコート)・・肺がドロドロに溶ける
    農薬

    慢性腎不全
     難治性である。腎臓の機能検査は、主に腎臓から排出される老廃物である血中尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cre)を指標とする。 しかし、腎臓の構成組織である糸球体が75%以上失われないと血液検査に異常が見られない。 したがって、BUNとCreが正常値であるからといって腎臓が正常であるとは限らない。末期では骨、消化器、神経に障害が出る。 慢性の腎不全は治ることが絶対にない病気である。したがって処置としては残った器官を最大限に保護して進行を遅らせることに主眼を置くことになる。 見分ける症状としては、多飲多尿、低比重たんぱく尿である。黄色くなくて(尿くさくなくて)たくさんの尿を出すのは要注意である。
     また、最近注目するべき原因としては歯周病が挙げられる。慢性の歯周病があると歯根部の毛細血管 を通じて細菌や細菌に対する免疫複合体が腎臓や肝臓に運ばれて叙々に臓器障害に発展するからである。歯が健康な犬猫は 歯周病を持つ犬猫に比べて寿命が2年も伸び、猫で人間への年齢換算をすると10年も寿命が異なるということである。 慢性腎不全への対策は日頃からの予防意識が重要であり、歯磨きの習慣や定期的な歯石除去が その有効な方法であるといえ、これは飼い主にしかできないことでもある。

    <腎臓が慢性的に悪くなる要因>
    @急性腎不全から
    A腎性腎不全
     (糸球体腎炎、間質性腎炎、腫瘍、腎盂腎炎)
    B猫の加齢 : 腎臓が萎縮→腎不全
    Cオス猫の尿閉塞症(ストラバイト結晶がペニスにつまる)
     ・水を飲むのが少ない子に対してはフードを湯でふやかす
     ・トイレの数=猫数+1
     ・尿毒症になったときのトイレは嫌がることや、他の子が使ったトイレは嫌
      などの精神的要因にも気を配ることが必要。

    慢性腎不全の治療
    初期:

    臨床症状がほとんどなく、血液検査で異常が出ている状態。家族が気がつくような状態は初期とはいえない。
    高蛋白食をひかえ、腎臓の血流を良好に維持するACE阻害剤の内服を開始し、腎不全の進行を遅らせる。 歯磨き歯石除去によりさらなる延命効果が期待できる。

    中期:
    なんとなく痩せてきた、時々嘔吐する、軽度の貧血といったことが見られるだけで あとは何ともない状態。
    初期の維持療法に加え、医療用の合成活性炭の内服を開始し、腎臓のろ過機能の手助けをする。 麻酔をかけたり手術を行うときは、術前、術後と充分に点滴を行い、腎臓の機能の様子を観察する必要がある。 たんぱく質を適度に制限した食事がよいとされているが、末期に近づくと極端な蛋白制限は逆効果になるという 報告もある。

    末期:
    @延命
    A無治療
    B安楽死
    のどれかを選択することになる。 @に関して、3割の子は点滴の効果がないが、残り7割の子に対してはエリスロポエチンという造血作用のある薬を与えてBUNを下げ、 食欲の回復を期待し、食欲が回復したら静脈点滴(入院)→自宅にて皮下輸液療法  を繰り返して延命させる方法もある。それでも残念ながら4ヶ月程度の延命であるということである。
    どれを選ぶにしてもQOL(Quality of Life)の向上を考えた末のものでありたい。

    --以上--

    文献
    竹内和義,犬と猫の腎臓病,第7回日本臨床獣医学フォーラム2005年 年次大会 プロシーディング Vol.7-2, 4-97〜4-99(2005)


    <管理人より>
    慢性腎不全は決して受け身的な病気ではなく、慢性腎不全になってしまう可能性を一つでも減らしてやることが 飼い主にはできます。それは歯磨きであったり、歯石除去であったり。慢性腎不全の要因の1つにすぎないかもしれないけれど、 それでも、それは確実に飼い主の努力によって潰せる要因です。自分のペットの口の中を見てみたことはありますか? 口を閉じれば見えないからって、目をそむけていませんか?見たらきっと、なんとかしてあげたくなるはずです。 そうはいっても歯磨きをやらせてくれない子は多いことでしょう。でも、小さいころからの日頃のしつけによって 口を開けることや口に異物を入れられても平気な子にすることはできます。すべては飼い主さんの努力しだい。 ご褒美などをもちいて、嫌な行為を好きな行為に変えてあげる努力をしてあげてください。 大変なのは最初だけです。

    筆:ありあり 2005年9月23日


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