この文章は、2005年9月16-18日に開催された日本臨床獣医学フォーラム 年次大会に参加した際のテキストとメモをもとに作成しています。 発表者は 麻布大学獣医学部 付属病院 腎・泌尿器科 三品美夏先生 です。
膀胱炎 : 簡単に言うと膀胱粘膜の炎症
犬と猫とでは発生原因が異なり、経路により
原因
犬:
ほとんどが急性細菌性(単純性)膀胱炎。無菌状態の膀胱内に菌が入ってくるのを防ぐ
生態的防御機構が弱まったときにおこる。
猫:
・ほとんどは非細菌性である。慢性複雑性であることが多い。
・猫下部尿路疾患の1つ。ストルバイト結晶と関係することもある。
・明らかな原因がみつからないこともある。
・膀胱炎を繰り返し、慢性化することもある。
・尿路結石、膀胱腫瘍、先天性の尿路異常、前立腺の病気 に伴う事がある。
・糖尿病、副腎皮質機能亢進症、腎不全といった基礎疾患によることもある。
症状
・頻尿、残尿感
何度もトイレにはいる。
1回の尿量は少ない。
不適切な場所への粗相。
・排尿痛
・尿混濁、血尿
正常な尿は透明。
血尿の色は、濃橙色〜赤〜赤褐色まで様々
・くさい尿
診断
身体検査:
・尿が出ていないだけなのか、残尿感なのか
・尿路閉塞か(膀胱は大きく拡張。触診で下手に圧力をかけると大変)膀胱炎か(普通に拡張)
・腹部がはってるか?ぐったりしているか?
・全身症状はあるか?(腎盂腎炎、前立腺腫瘍があるかもしれない)
血液検査:
基礎疾患や腎盂腎炎、尿路閉塞がないならば、異常所見は見られない。
・慢性腎不全 : Ht↓ BUN↑ Cr↑ IP↑
・糖尿病 : Glu↑
・腎盂腎炎 : WBC↑ BUN↑ Cr↑
・尿路閉塞 : WBC↑ BUN↑ Cr↑
尿検査:
膀胱炎ではアルカリ性を呈することが多い。時間経過とともにアルカリ性へと変わり、また結晶も過剰析出するため
(普段から微量な結晶は存在する)、できるだけ新鮮な尿を用いる必要がある。自然排尿やカテーテル採尿では包皮や膣に存在する細菌に汚染され、尿検査の解釈が変わる。
よって正確な検査をするには膀胱穿刺をする必要がある。遠心分離では1500rpmで5分以内、
沈査は細胞の変性、結晶の過剰析出がないようにできるだけ早く行う。
レントゲン検査:
膀胱炎の診断はできないが、膀胱の大きさの評価を行う。また膀胱炎に関連する周囲組織の評価を行う。
エコー検査:
膀胱内の把握。周辺組織の状態も分かる。
治療
・初回の急性細菌性膀胱炎では最低で14日間の抗生剤投与を行う。数日で症状が治まるために飼い主は
自分の判断で投薬を中止することが多いが、これは膀胱炎の再発の原因となり、ひいては難治性の
慢性的膀胱炎へと発展してしまうことがある。
・持続する膀胱炎では膀胱粘膜が肥厚し,細菌が深部まで潜り込む。膀胱炎の原因となる疾患の見落とし、
抗生剤の選択ミス、使用量のミス、耐性菌の出現などが考えられる。血液検査、画像診断で他の病気の有無を特定し、
必要ならば尿細菌培養検査や薬剤感受性検査によって適切な抗生剤を選択する。投薬に関しては最低4週間の長期的な抗生剤の使用と抗炎症剤
の併用を行う必要がある。ピロキシカム系の抗炎症剤を使い、4週以降は2〜3日に一度とする。(抗炎症剤としてステロイド剤はあまり意味がないらしい。)
素因となる病気としては
オス:前立腺
老齢:尿路の腫瘍
を疑う。
・結晶による膀胱炎の場合は、食事療法が行われる。
(管理人アドバイス:井戸水やミネラルウォーターをあげていませんか?猫下部尿路疾患に対応したフードをあげていますか?
ストレスを与えていませんか?普段の生活で、結晶ができないような環境を作ってあげることが大切です。)
・結晶もない突発性膀胱炎では抗炎症剤の投与を行う。
・尿路閉塞、腫瘍、前立腺肥大、解剖学的異常などによるときは外科的処置をほどこすこともある。
・膀胱炎の原因として腎不全、副腎皮質機能亢進症、糖尿病などがある場合にはこれらをコントロール することが難しく、膀胱炎の治療は難しくなる。
*ダラダラ食いは尿をアルカリにかたむける傾向にある。
*トイレは清潔に!
*肥満は万病のもと。体重管理を!
--以上--
文献
三品美夏,犬と猫の膀胱炎,第7回日本臨床獣医学フォーラム2005年 年次大会 プロシーディング Vol.7-2,
4-58〜4-59(2005)
<管理人より>
尿のpHを把握しておくことは、とても大事だと思います。獣医さんで測るほうが正確ですが、
市販のpH試験紙を使えば(東急ハンズとかに売っています。)酸性かアルカリ性かくらいは自分でも簡単に分かります。
膀胱炎を1回でもやった子に対しては、時々おトイレ中に失礼して確認してみることは有効な方法であると思います。
また、私の体験も含めて結晶による膀胱炎の話を聞いていると、前兆として原因が思い当たらない下痢がともなうことがあるようです。
猫は下痢をしやすい動物ではあります。だいたいはビオフェルミン錠を与えることで改善されるのですが、
私の体験では、ビオフェルミンをあげても改善が見られない下痢が続きました。
ウチの場合は飲み水として井戸水を与えていた事が膀胱炎の最大の原因でありました。我が家の井戸水は硬度が高かったのです。
冬場で飲み水の量が減り、また新入り猫の出現というストレスのかかる状況にさらされたことが引き金になったと思います。
井戸水を止めた途端に結晶が消え、より生き生きと活動的になりました。
飲み水のことは、猫を飼うにあたってのアドバイスとして聞くことはあまりありません。
これを読み、このケースを皆様の頭に残してくだされば、幸いです。
筆:ありあり 2005年9月23日